ワークショップ

今日、日本心理臨床学会の春季ワークショップで、「緊急支援」の講師を担当させて頂きました。

最初、オファーが来た時に、「え?!なんで私が?!」と動揺し、すぐに日本チームリーダーの冨永先生に連絡。断る気まんまんでいた。でも、冨永先生曰く、「断っちゃダメだよ。やらなきゃ、もう」の一言。ああああ・・・・・(涙)。恐れ多くて、臨床心理士の方にレクチャーできるような力量なんてないのに・・・。でも冨永先生の一言に反する勇気もなく、そして日本チームのメンバーの「やれるよ!がんばれ!」という暖かい応援もあり、がんばってみることにした。でも、正直、今日まで「やれるか?!」という思いもあった。かろうじて、冨永先生が「しゃおりんも講師をやらなきゃ。だから、みんな助けちゃダメだよ」という暖かくも厳しいご指導を頂いている中、高橋先生が「初めての講師なのに、最初から1日研修は大変だよ」ということで、お手伝いしてくれたことが救いだった。

このワークショップの案内は、1月に原稿締め切りだった。その時にすでに新型インフルエンザの対応も視野に入れておいた方がいいと考えていたので、以下のような案内を出していた。

「地球規模の環境変化により、地震や水害など様々な災害が発生しています。そして、いつ発生してもおかしくないとされる新型インフルエンザの発生など、コミュニティを大きく揺るがす事態において臨床心理士が心のケアを行うことが社会的にも求められてきています。そこで、本ワークショップでは、災害時の臨床経験豊かな高橋哲氏を交え、明日急に支援を行うことになった時にも、すぐに活動できる基礎的な力をつけることを目的とします。内容は、①災害時の心理と対応方法、②支援者の心理、③チームによる活動、となります。」

そして、4月に入り新型インフルエンザの発生・・・。我ながらびっくりした。

研修の内容に関しては、私が四川に行く時、そして現地に行ってからとまどったり、不安に感じたり、「事前にもっと勉強しておけばよかった」と感じたりしたところを丁寧に振り返る作業から始めた。私が感じたとまどいや不安は共通の体験として、最初に被災者支援をする人に起こりうるものと考えたためだ。

そこで、初期から中長期のケアにかけて知識をたくさん伝えるよりも、初期のケアに限定をして、そこだけでも「やれる」感覚をどうつけてもらうかに焦点をあてることにした。 ここで活かしたのが、SSTの構成だった。

「災害直後の初期のケアに関するスキル」を、ターゲットスキルとして捉えて、SSTの授業構成を取り入れてみた。

まず最初に、高橋先生と私から、トラウマティックストレスや、初期に活用できるPsychological First Aid(PFA)、ストマネの話などをした。これがSSTでいえば、「インストラクション」「モデリング」。

そしてその後は、グループになって、心理教育の「リハーサル」をしてもらった。 リハーサルは、よりリアリティを感じてもらうために、日本チームのメンバーにJAPANのチームベストを持ってきてもらい、それを着てもらった。「JAPANチーム」の緊張感を少しでも感じてほしかったというものある。

リハーサルは、小中学校の子どもを持つ保護者向けの心理教育、時期は災害後1か月を想定した。どのように心理教育を行うとよいかについて、各グループで、いろいろとアイディアを出した議論がされていた。グループワークをした後に、時間の関係で1グループだけ前で実演してもらうことにした。くじ引きで、プレゼンテーションするグループを選出し、プレゼンから外れたグループには保護者役になってもらい、想定される質問を議論してもらった。

そして、プレゼン。グループのメンバー全員が必ずプレゼンテーションをしてもらうようにした。なかなか工夫されたプレゼンだった。そして質疑応答。さすが臨床心理士の皆さん、質問がなかなかリアルで手厳しい(笑)。プレゼンしたグループは、それに即答することが求められる。プレゼンをしたグループは、試行錯誤しながら、保護者役の人から出てきた質問に答えていた。

最後、全体で感想をまとめ、講師から講評として「フィードバック」を行いました

感想を書いて頂いたのを読ませて頂いて、「わかっているつもりでも、いざ説明するとなると難しかった」、「少しやれそうかもと前向きになれた」などの感想を頂きました。被災者支援は「私には無理」から、「私にも少しやれそう」と思ってもらえる研修が大切であると考えていたので、被災者支援に関するエフィカシーが少し高くなるお手伝いができたかなと思いました。まさに、SSTのテクニックが活かされたと言えます。

ただ、「勉強不足を痛感した」等、自分の力量の至らなさを書いてくださった方も多かったのです。でも私も同時に、「講師をやらせていただいたけれども、自分はまだまだだ・・」と思ったのが正直なところです。帰りの新幹線の中で、臨床の仕事に終わりはないということと、特にこの被害者支援、被災者支援に関しては、いつもこうした「自分はやれるのか」「自分のやっていることに間違いはないか」という不安はついてくる領域なのかもと、連想しました。だからこそ、支援者のセルフケア、支援者の支援が必要なのだろうなと・・・(一般的には、わかっていることなのですが・・・)。

ワークショップの最後に、「静岡で東海地震が起きたら、私たちをサポートしにきて下さいね。」とお話しさせて頂いた時に、拍手を頂きました。とても心強い気持ちになりました

静岡で残念ながら災害が発生した時に、日本全国から、そして世界中から、仲間が駆けつけてくれる・・・そんなあたたかい気持ちがまたふわっと湧いてきた、今日のワークショップでした。

「VLF思いやり育成プログラム」の本が発刊されました

渡辺弥生先生が編者をされている「絵本で育てるソーシャルスキル」が発刊されました。

この本は、渡辺先生がハーバード大に短期研修に行かれた際に、セルマン先生から指導をもらって日本に紹介した「VLF思いやり育成プログラム」に基づいています。

渡辺先生によるとこの本のコンセプトは、「普段の子どもたちによく見られる18のトラブルを取り上げ、具体的にどのようにかかわったらよいかについて、VLF思いやり育成プログラムという方法でアプローチしました。このプログラムのポイントは、ソーシャルスキルの考え、思いやりの心を育む、絵本を使う、の3つにあります。子どもたちが大好きな絵本を使うことで、いろいろな人たちとうまく生活していくために必要なソーシャルスキルを楽しく学ぶことができます」、とあります。

私はこの本で、「友だちにいじわるをする子」「友だちを助けてあげない子」「友だちが傷つくことをする子」を担当させて頂きました。この原稿を書くためによい絵本はないかといろいろと調べたり、読んだりしました。その時に気づいたのが、「いじめられっ子」が主人公の絵本はあっても(例えば、からすたろう)、「いじめっ子」が主人公の絵本がないこと。いじめっ子が、ある出来事をきっかけに自分がしてきたことを振り返る・・・といった内容の絵本がないかといろいろ探したのですが、結局、私のリサーチで見つからなかったのです(もし「こんな本があるよ!」という本があればぜひ教えてください!)。いじめっ子の心情、そしてその心情の変化に触れるものがあってもよいのにな・・・と思います。

VLFはここしばらく実践していませんが、以前、mmm先生が「裏庭での出来事」という文部科学省作成のビデオ教材を用いてやってくださったVLFの授業は今でも私にとって印象深い授業として残っています(今でもなぜあの授業を録画しなかったんだろうと後悔しています)。VLFは、SSTとはまた異なる雰囲気、そして深く、子どもに迫る授業になるのですが、教材研究によって授業者の力量が出やすいのと(これはどの授業でも同じかもしれませんが)、一つの価値観を教える道徳の授業と違って、様々な意見が出てくることによる道徳との違いが先生方にとって少し違和感があるようです。ただ、小学校の先生にはとてもなじみやすいプログラムです。

久しぶりにVLFもやってみたくなってきました。そして興味のある方はぜひお手元に1冊、ぜひ

危機と向かい合う

新型インフルエンザが国内で広まってきている。

実は、私はこの心理学の道に入る前は、製薬会社の研究所で新薬の開発研究に携わっていた。その時代に、最も長い時間、研究に携わった新薬が抗インフルエンザ薬「リレンザ」だ。タミフルは服用だけれども、リレンザは吸引するタイプのものだ。すでに市場に出ているので、タミフルまでとはいかないけれど、お世話になった人もいると思う。

研究に携わっていた当時から新型インフルエンザの脅威は迫っていて、新薬開発のペースを上げて早く出すようにとプレッシャーがかかっていた。なので、先月、豚インフルエンザがメキシコで発生し、フェーズが4、5とあがっていった時には、「とうとうこの時が来たか・・・」と、複雑な気持ちでTVを見た。

神戸市では学校が閉鎖されて、高校生を中心に感染が広まっている。感染はしても、どうか亡くなる人だけは出ないで欲しいと思っている。身近なところでの感染は時間の問題なので、新型インフルエンザなどの感染症が引き起こすトラウマはこれまでに論じられているのかと思った。

APAが出している「Helping children cope with Disasters and Terrorism」を開いてみた。この本では、災害を「natural disasters」と、「Human-made disasters」に分けている。新型インフルエンザの場合、単純には「natural」になる。ただ先日、この新型インフルエンザが人為的に発生したものという報道も流れている。いずれにしても、感染症に関しては何の記述もなかった。そのことに驚いた。

バイオセーフティレベルが高いSARSやエボラ出血熱といった感染症がこれまでに起こっているけれども、その後の「心のケア」は行われなかったということなのだろうか・・・。地震やハリケーンと違って、PTSDにはなりにくいものなのだろうか・・・。いろいろな疑問が出てくる。

先日のミサイル発射実験、そして新型インフルエンザ・・・

今年に入り、様々な危機が起きている。ある意味、こうした危機発生時のケアについて、臨床心理士はそれを社会から求められ、それができるようにしておく、そんな新しい時代に入ってきたのかもしれない。

あれから1年・・・

四川大地震から、今日でちょうど1年。

日本のメディアでも久しぶりに、四川大地震に関係する報道がされた。昨日のNHK「クローズアップ現代」では、四川の復興についての特集だった。私が活動に入った綿竹の様子が映し出されていた。その映像の中には、この目で見てきた光景がその後どのようになったかを映していた。

避難キャンプで出会った人たちはどうしているのだろう・・・

今の私には、ただ祈ることしかできない。

被災地での支援をきっかけにこの1年は正直、支援者としての無力感との戦いだった。

「私の支援は役に立っているのか・・・」

なんとも言えない思いになったことは、数えきれないほどあった。

そして、それは今でもある。

ただ今、はっきり言えることは、自分にできることを、誠実に、真摯にやっていくこと。

そして、あきらめないこと。

1年経った今日、流れた時間をふりかえって、いろいろなことを考えた。そして、盟友 吉先生と電話で話をしながら、またいろいろと思った。

次の1年に向けて、一歩一歩 歩いていこうと思う。